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05.05.25 水曜日

バーに征こう

漢[おとこ]と己は渋谷の地下にあるバーで呑んでいた。


漢はシャンディガフを、
己はブルームーンを呑んでいた。


話している途中、左斜の席に座っていた紳士がイスから転げてしまった。


左手の紳士。


「いいこけップリだ」ということで己がビールをご馳走した。

すると、向こうからもブルームーンの返杯があり、お友達になった。


バーは面白い。

己が今一緒にいるこの漢との出会いもそうだったのだ。

ブルームーンを喰らいながら、己はあの日を思い出していた。


 
 
 
 
四年前

雷が轟き、強い雨がアスファルトを穿っていたある水曜の晩。

己は当時のルームメイト“筋肉パスタ”川島賢一、“監督”堀部勇貴と3人でバーで呑んでいた。


その小さなバーには、己たち3人しか客がおらず、誰にも遠慮せずに大きな声でゲラゲラと笑い合っていた。


店の軽い黒いドアが開いた。

ザーッと外の雨の音が聞こえてすぐに消えた。

閉じられたドアに消えた。


漢が入口で傘をたたんでいた。

漢の背広は少し濡れていた。


己はちらりと漢と目線を合わせた。

漢は、面白そうな人間ではなかった。
だが、面白くなさそうでもなかった。


計りかねる。


これが漢の第一印象だった。


漢は、我々3人の奥に座った。


己は、貸切プライベートの雰囲気が崩れてしまって残念に思った。


漢は、酒を頼み連れと会話をはじめた。


我々3人は、少しテンションを落として会話を続けた。


そして再び3人の会話が盛り上がってきた頃、
己は小用を催した。


狭いバーだったので、手洗に向かうのに少し難儀した。


やっと手洗のドアを開けたとき、漢の会話がふと聞こえた。
「そう。和田清華ちゃんって子が結婚して…」

己は
「トイレに行くのも難儀だな。
 清かと結婚するのは森田英一。」
とつぶやいた。

漢は丁寧な言葉遣いで
「え?和田清華ちゃん、知ってるんですか?」
と言った。

「知ってるもなにも…」
トイレのドアを閉める。


「いい話の展開途中でトイレ行くなよ!」
堀部勇貴がツッコム。

その日の会話のテーマは「野望」だった。
我々3人と向こう2人の5人で
野望について語る。


ひとりひとり順番に語り、
番が回ってきて漢はこう語った。

「野望って、スパンがあると思うんだけど、まずは近いものから。
 ぼくは会社をやってるんだけど、今年は社員の海外旅行を増やします。」


 か、

「かっこいい!
 あんた、かっこいいな!
 谷口正俊さんでしたっけ。
 谷ちゃん!
 あんたかっこいい!」

「初対面の人をあんたとか言うな。」
ありがとう堀部勇貴。


面白さを計りかねた漢は、果たして「超」面白かった。

言葉の端々に彼の面白味がにじみ出ていた。


以来、“嬉しい好漢”谷口正俊とは親しいつきあいだ。


谷ちゃんも、己も森田夫妻の結婚パーティーに出席したから
どちらにしろ出会っていただろう。

しかし、あの日の出会いがなければ今日ほど親しくはならなかっただろう。


ブルームーンを呑み干して、ドライマティーニを注いでもらった。


今、谷口正俊と多苗尚志のタッグが軽快に紳士と会話を楽しむ。

谷口正俊

投稿者 多苗尚志 : 2005年5月25日 14:16編集
[ 谷口正俊伝 ]

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