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06.08.21 月曜日

多苗尚志のサシ呑みクルセイダーズ 19 梨木繁幸

己には何人かサシで呑みたい友がいる。

月に何回か呑みたい友
月にいっぺん呑みたい友
3ヶ月にいっぺん呑みたい友
半年にいっぺん呑みたい友
年にいっぺん呑みたい友

なぜかカッチリ別れるのだ。
己の中で。

頻度は親交の深さに比例していない。

ただのタイミングに過ぎない。

奴は年に1回なのだ。月になんべんも呑む相手じゃない。

"幸せを繁らせる梨"梨木繁幸と一年ぶりにサシで呑む。

己はなっしきが大好きだ。

こいつと一緒にいるとすごくハッピーだ。

21日に呑もうとだけ早くから決めていて
その日になっても何時に呑むとかどこで呑むとか言わない。

直前になって「新宿にするか、どこか他にするか」と話し合う。

己は
「おめぇさん家に泊まれるんなら神楽坂(奴の会社と家がある)に征くよ」と、
またしてもジプシー魂を包含する返事を繰り出す。

「いいよ」とひとつ返事。

神楽坂へ征かむ。

禁酒中の己は「酒より飯。雰囲気のイイ店教えて」と注文する。

「少し歩くよ」ということで、ふたりでふらりふらりと歩く。

語りながら爆笑し合いながら歩く。

歩きながらふたりのダイヤルは調整されゆく。

裏京都といった趣きの隠れた店に連れていかれる。

店の玄関で靴を脱ぎ、民家のようなつくりの店の席に着いた時、既に十時半。

閉店は十一時半とのこと。

一時間を味わい尽くすだけだ。

平日の世界からすっかりふたりで京都に旅行に来たよう。

気持ちよくなっているところ、店の女将が着物姿でやってくる。

どんな美人でもお呼びではないわ。己はなっしきとの1年の逢瀬であるぞ。

イイ男ふたりに惹かれたのか、女将は饒舌で、余って猥談まで語り始める。

(いい加減、去ね)と己はピキピキ来るも、心の広いなっしきが
「うんうん」「へぇ~」「勉強になるな」と合わせているので、まぁいいかと
窓から店の庭を臨む。

明るい照明にてらされた夜の日本庭園がトリップ気分を一層高める。

落ち葉からのぞく土の色に心が温かくなり、
こうしてなっしきとテーブルを挟んでいることにじんわりと感謝の情がわく。

「それじゃ、あんまり邪魔してはいけませんから」と女将は
既に邪魔していながら更にもったいぶって離れる。

なっしきと己は女将の話題にはまるで触れず
「最近、気づいたことはなに?」と話をはじめる。

「気づいたこと。
 あんまりないなぁ。
 というより、一個一個の小さな気づきというより
 ここ一年で考え方そのものが根底から大きく変わってしまったんだ」
となっしきは語る。

なっしきはホントに濃い、濃密な、ノウミツな生き方をする倭(おとこ)だから
言葉のひとつひとつが面白い。

怠け者の、時々意識して隙を入れるようなスカスカな生き方の己の
そのスカスカに、なっしきの蜜が染みこむようで

ああ、だからなっしきと己は合うのね、とも思う。

夏なのに夜桜の花見のような空気で
時間がふんわりとトンネルになって我々をつつみ
秒の刻みが1・・47・・13・・8と出鱈目だ。

ざくっと6倍くらいの時を過ごして1時間は過ぎた。

ごちそうさま

なっしき、また1年後にサシで呑もうね。

投稿者 多苗尚志 : 2006年8月21日 20:03編集
[ 梨木繁幸伝多苗尚志のサシ呑みクエスト ]

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