8.テポドン撃ち込まれて原田広太郎登場

 

98年 大学三年 7月〜9月

藤沢烈はついに夢であったバーを開いた。1998年7月1日「狐の木」開店である。

人一倍、人の出会いというものに関心を抱いていた烈の想いの結晶。

烈の夢があったからできたし、佐藤孝治と佐藤家の大きな協力があったからできたし、みんなが力を合わせたからできた。

己も微力ながら開店準備を手伝わせてもらい、そのままオープニングスタッフになった。

狐の木は「物語BAR」と銘打っていた通りに様々な人と人との物語が生まれたBARであった。

 

 

己は速攻一ヶ月でクビになった。

狐の木初めてのクビであり、史上唯一のクビである。

ケンカとかそういうんじゃない。

正面切ってクビ。ほんとクビ。リアルクビ。

藤沢店長から「多苗クン。クビ。」と言われた。気持ちよかった。

まぁまぁそれはいいとして、己もまた狐の木から出会いの恩恵を授かるのである。

 

二ヶ月が経って、店の経営もまぁ、順調だった。

学校の近くに一人暮らしをするようになって以来、やはり王子に足が遠のいた。

狐の木には新しい人材も入ってきて、「多苗」という名前だけでは通用しないことも出てき始めていた。

いいことだ。

 

九月

なんかの用事で王子に行った。

狐の木に寄った。

知らない男と女がカウンターに座っていた。

そりゃ店なのだから、自分の知ってる者だけがいるというわけにはいくまい。

いい雰囲気をもった人間だった。

だが、己は急いでいた。(急いでるときに限って

 

烈に用事があって烈は裏の事務所にいたので己は裏に回った。

話が終わると、烈から「紹介したい人がいる。ちょっとバーの方へ」といわれる。

狐の木に行くと、さっき見た男と女を紹介された。

それが原田広太郎(広太郎)と登坂真帆(マホ)だった。

「原田広太郎です。よろしく。」

はい、キマリ。

もう十分。

挨拶はなくてもよかったくらいだ。

雄弁な力強い体格。揺るがない個をもっている。それでいておしゃれで洗練された感じ。縁のない眼鏡。さわやかで丁寧な笑顔。どこかに育ちのよさ。

握手する。

握りつぶされるかと思う程に力が強い。

年下の同学年。こいつはイイ。

 

マホもとてもイイ女だった。

雰囲気が突き抜けている。個性だ。はちきれんばかりそれでいて暑苦しくない、伝染する笑顔。

マホはイラストを描いていて、己と出会った印象を描いてもらった。己はその絵を好きになった。

 

その日は我が国日本がテポドンを撃ち込まれた日だった。

己はその不安になんだか動転してしまって支離滅裂になって超ハイテンションになっていた。

今日でも覚えてるくらいのハイテンションだ。

そのハイテンションがこの出会いに噛み合った。

一気呵成に意気投合。

彼らとの出会いは狐の木からもらった最大の出会いのひとつだ。

 

広太郎は気持ちのイイ奴で、そして豪快だった。豪傑だよ。あいつは。

喰らう。そして力が強い。レスラーのよう。愛嬌で背中を叩かれるとマジで痛い。でも、力いれてない様子。

肝っ玉がでかくて、でも大雑把ではなくしっかりしてて、礼儀もあって、義理もあって…。

絵に描いたような漫画に出てくるような気持ちのいい奴。

 

広太郎の友達は今風の若者で、渋谷に精通してた。笑。

女の子が輪の中に居るんだよ。んで、可愛いんだよ。

言い方がダサイがまぶしかったよ、己にとっては。

ファッションって重要。

己は大学三年、神田恵介と原田広太郎に出会うことで垢抜けたのでした。

シチーボーイになったのでした。

ケイスケがファッションなら広太郎にはクラブ遊びの楽しさを教えてもらった。

ああ、出会いってステキ。

 

いまだにクラブも行けない君!

原田広太郎に会いなしゃいっ!

(段々テキトーになってきたなこの結び)

 

 

つづく